№34 判例評釈:住宅建替え中の敷地に係る固定資産税の軽減

2011.08.28 住宅建替え中の敷地に係る固定資産税の軽減

建替え工事中の居住用家屋の敷地に対して、固定資産税の軽減特例が適用されるか否かが争われた事件で、最高裁第二小法廷は、その年度の固定資産税の賦課期日における土地の現況により判断すべきとしました(平成23年3月25日、2009年(行ヒ)第154号)。今回は長文となりますが、この判例を解説したいと思います。なお、判決文中の( )書は、わかり易く解説するために私が挿入したものです。

1.事実の概要

 上告人Xは、訴外A社との間で、旧家屋を取り壊し本件土地の上に新家屋を新築する工事請負契約を締結した。新築工事は、平成16年7月26日から平成17年5月31日までを工事予定期間として着工されたが、平成17年2月頃、多数の瑕疵が存在することが判明した。1年近くの工事の中断後、平成18年4月14日に契約を締結し、本件土地は建築途中の新家屋とともにXからA社に譲渡された。被上告人Y(東京都渋谷都税事務所長)は、当初、本件土地を「住宅建替え中の土地に係る住宅用地」と認定し、特例を適用して平成17年度及び平成18年度の固定資産税額を軽減していた。しかし、本件土地の所有権がXからA社に移転して建築主が変更されたことにより、YはXに対し、当初処分における各年度の固定資産税等の税額と本件土地につき本件特例の適用がないものとして計算した当該各年度の固定資産税等の税額との差額分について、それぞれ賦課決定をした。Xはこれを不服としてYに対し取消訴訟を提起した。

2.原審判決

 原審は次のとおり判断し、上告人Xの請求をいずれも棄却すべきものとした。

 地方税法349条の3の2第1項にいう「敷地の用に供されている土地」とは、固定資産税の賦課期日において現に居住用家屋の存する土地をいい、居住用家屋の建築予定地及び居住用家屋が建築されつつある土地はいずれもこれに当たらないと解される。…被上告人Yの取扱い(特例を適用して各年度の固定資産税額を軽減した当初の処分)は、住宅政策上の見地からの住宅用地に係る税負担の緩和という本件特例の趣旨に沿い、課税の公平にもかなうものであるから、…違法とするには及ばないが、本件土地については、基準(筆者注)を満たす余地がなくなったと認められるから、賦課期日において本件土地の上に現に居住用家屋が存しなかった平成17年度及び同18年度の固定資産税等について本件特例の適用がないものとされた本件各処分は適法である。

(筆者注)「当該年度の前年度に係る賦課期日における建替え前の住宅の所有者と建替え後の住宅の所有者が同一であること」という基準。詳細は後述4.解説の中段を参照のこと。

3.最高裁判決

 原審の上記判断のうち、平成18年度処分に関する部分は、結論において是認することができるが、平成17年度処分に関する部分は、是認することができない。その理由は、次のとおりである。

(1)本件特例は、居住用家屋の「敷地の用に供されている土地」(地方税法349条の3の2第1項)に対して適用されるものであるところ、ある土地が上記「敷地の用に供されている土地」に当たるかどうかは、当該年度の固定資産税の賦課期日における当該土地の現況によって決すべきである。

(2)平成17年度の固定資産税の賦課期日である平成17年1月1日における本件土地の現況は、…居住用家屋となる予定の新家屋の建築工事が現に進行中であることが客観的に見て取れる状況にあったということができる。このような現況の下では、本件土地は上記「敷地の用に供されている土地」に当たるということができ、その後になって、新家屋の建築工事が中断し、建築途中の新家屋とともに本件土地がA社に譲渡されるという事態が生じたとしても、遡って賦課期日において本件土地が上記「敷地の用に供されている土地」でなかったことになるものではない。

(3)これに対し、平成18年度の固定資産税の賦課期日である平成18年1月1日における本件土地の現況は、上記の期間を工事予定期間として着工された新家屋の建築工事が、…1年近く中断し、相当の期間内に工事が再開されて新家屋の完成することが客観的に見て取れるような事情もうかがわれない状況にあったということができる。このような現況の下では、本件土地は上記「敷地の用に供されている土地」に当たるということができず、…平成18年度処分は、適法というべきである。

4.解説

 最高裁は、土地が居住用家屋の敷地の用に供されているか否かは、その年度の固定資産税の賦課期日における土地の現況によって決すべきであると判示しました。そして、平成17年度の処分に関しては、後日に新家屋の建築工事の中断、建築途中の新家屋と土地の譲渡という事態が生じたとしても、遡って賦課期日において敷地の用に供される土地でなかったことにはならないと判断しました。しかし、翌年18年度分については、建築工事が中断したまま、新家屋の完成を客観的に見て取れる事情も伺われず、居住用家屋の敷地に供されている土地に当たるとは言えないと認定し、固定資産税等の軽減特例の適用はないとして、原審の判断を是認したのです。

「住宅建替え中の土地に係る住宅用地の認定について」と題する通達(平成14年12月6日14主資評第123号。平成21年2月24日20主資評第343号による廃止前のもの)では、既存の住宅に替えて住宅を新築する土地のうち、①当該土地が当該年度の前年度に係る賦課期日において住宅用地であったこと、②住宅の新築が建替え前の住宅の敷地と同一の敷地において行われるものであること、③当該年度の前年度に係る賦課期日における建替え前の住宅の所有者と建替え後の住宅の所有者が同一であること、④当該年度に係る賦課期日において、住宅の新築工事に着手しているか、又は、確認申請書を提出していて確認済証の交付後直ちに(既に確認済証の交付を受けている場合は直ちに)住宅の新築工事に着手するものであること、という適用基準の全てに該当する土地については、住宅が完成するまでに通常必要と認められる工事期間中は、従前の住宅用地の認定を継続することとしていたところです。

東京都渋谷都税事務所長は、上記③の基準を満たしていないので住宅用地の認定ができず、よって軽減特例の適用はしないという課税処分をしましたが、最高裁は、上記の基準を満たしているか否かは、賦課期日における当該土地の現況によって判断すべきとしたのです。

(完)

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