№196 持続化給付金等支払請求事件

2025.06.30

新型コロナウイルス感染症が拡大していた際、特に大きな影響を受けている事業者に対して、国が「持続化給付金」「家賃支援給付金」を給付する制度がありました。

ただし、風営法に規定する「性風俗関連特殊営業」当該営業に係る「接客業務受託営業」を行う事業者は、給付対象外となっていました。

これに対し、この給付対象の区分は、法の下の平等および職業選択の自由を定める憲法に違反するとして、性風俗を営む事業者が国を提訴しました(令和6年(行ツ)第21号持続化給付金等支払請求事件)。

この事案では合理性の根拠が争点となり、令和7年6月16日、最高裁第一小法廷は、給付対象から除外して区別することは憲法違反にならないと判決しました。

ただし、一人の裁判官から「性風俗関連特殊営業」を給付対象外とする合理的な根拠は見当たらないという興味深い反対意見があったので紹介します。

1.事案の概要

本件は「風営法」の無店舗型性風俗特殊営業を行う事業者が、新型コロナウイルス感染症の拡大等を受けて国が策定した「持続化給付金」及び「家賃支援給付金」につき、本件特殊営業を行う事業者には給付しないこととされていることが、法の下の平等を定める憲法14条1項、職業選択の自由を定める憲法22条1項に違反するなどと主張して、国に対し、本件各給付金の支払等を求めた事案である。

2.判旨

  • 憲法14条1項違反をいう部分について

憲法14条1項は、法の下の平等を定めており、本件各取扱いについては、本件各給付金が一定の政策目的をもって公費により給付されるものであることを踏まえた上で、給付対象となる事業者と本件特殊営業を行う事業者を区別することが不合理であるといえない限り、同項に違反するものではないというべきである。

①本件各給付金は、政策的な見地から種々の考慮要素を勘案して給付対象者の範囲を画することが許されるというべきである。

②本件特殊営業については、風営法において種々の規制がされているところ、これは、このような規制をしなければ、善良の風俗や清浄な風俗環境を保持し、少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止することができないと考えられたからにほかならない。

③国が本件各給付金に係る制度を設けるに当たり、本件特殊営業を行う事業者に対しては、公費を支出してまでその事業の継続を支えることは相当でないと判断し、給付対象から除外して区分することが不合理であるということはできない。

以上によれば、本件各取扱いは、憲法14条1項に違反するものとはいえない。

  • 憲法22条1項違反をいう部分について

本件各取扱いは、本件特殊営業を行う事業者に対し、一定額の給付をしないというものにとどまるところ、これが同事業者の職業活動に影響する面があるとしても、上記(1)で説示したところによれば、憲法22条1項に違反するものとはいえない。

よって、裁判官宮川美津子の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

3.裁判官宮川美津子の反対意見は、次のとおりである。

①本件各取扱いは、本件特殊営業を行う事業者及びその派遣する接客従業者が、あたかも社会的に見て劣位に置かれているという評価・印象を与え、あるいはそれらの固定化につながりかねない効果をもたらすおそれがあることからすれば、本件各取扱いの合理性判断においては、上記の本件各給付金の趣旨及び目的を重視すべきであり、本件各取扱いが本件特殊営業の事業者及び接客従業者の社会的評価に与える影響も考慮して、合理性の有無を慎重に検討すべきであると考える。

多数意見は、風営法における上記位置付けを本件各取扱いの合理性の根拠として挙げている。

しかしながら、風俗営業(風営法2条1項)を行う事業者は、本件各給付金の給付対象とされているところ、届出制、許可制の違いはあれ、風営法の規制の下で適法に営業を行っている事業者を、本件各給付金の給付の場面で区別することは、本件各給付金の趣旨及び目的と整合しないというほかない。したがって、風営法における本件特殊営業に対する規制手法をもって、本件各取扱いの合理性の根拠とすることはできない。

②次に、本件特殊営業については、接客サービスを提供して生計を立てる接客従業者が存在するとともに、当該サービスを求める顧客も存在しており、一定の社会的な需要があることは否定し難いところ、「売春」とは異なり(売春防止法1条ないし3条)、法律上接客従業者の尊厳を害するものと位置付けられていないことも考慮すべきである。そうすると、多数意見がいう点を踏まえても、本件各給付金の趣旨及び目的に照らせば、適法に本件特殊営業を行う事業者について、公費を支出して事業の継続を支えることは相当であると判断し得るものと考える。

③以上に加え、本件各給付金の趣旨及び目的からは、事業の内容によって取扱いを異にすべき理由がないことを考慮すると、本件各給付金の給付対象から本件特殊営業を除くことが合理的であるとする根拠は見当たらないというべきである。したがって、本件各取扱いは、憲法14条1項に違反するものであると考える。

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